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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)51号 判決 1965年10月20日

原告 吉野功

被告 国

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「原告が、昭和二七年四月二八日政令第一一八号減刑令による減刑該当者であることを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として、「(一)原告は昭和二五年七月一三日大阪高等裁判所において、詐欺、横領、背任、物価統制令違反被告事件により懲役二年(未決勾留日数四〇日算入)の言渡を受けた。右裁判は昭和二六年三月一六日上告棄却により確定したが、右罪のうち物価統制令違反の罪について昭和二七年四月二八日政令第一一七号大赦令によつて赦免され、したがつて非赦免罪である詐欺、横領、背任の各罪についてはいわゆる分離決定により右宣告刑が懲役一年一〇月(未決勾留日数四〇日算入)に変更された。(二)ところが右分離決定の変更刑についてはさらに昭和二七年四月二八日政令第一一八号減刑令によりその刑期の四分の一を減軽すべきであつたにもかかわらず、被告機関は当時保釈中であつた原告をみだりに遁刑者と看做し、同令第一条但書により減刑非該当者として取り扱つたので、原告は右分離決定の変更刑のとおりその刑の執行(始期昭和二七年八月二〇日、終期昭和二九年五月一一日)を受け終つた。(三)しかし原告は右減刑令の施行の際すなわち昭和二七年四月二八日午前零時現在において逃げ隠れていた者でないから、減刑非該当者とした被告機関の取扱は違法である。そこで、原告は、右減刑令による減刑該当者であることの確認を求めるため本訴に及んだ。」と述べ、被告の答弁に対し「被告は、本件訴は不適法であると主張するが、恩赦はそもそも刑罰権に対する国家の反省から出発する。刑罰が果して国民の生活の安定、社会秩序の維持に役立つているかどうかを省みて、生きた人間社会の不合理が若し刑罰に由来していると結論される場合には、国家は自ら責め、自ら恥じて、これをもたらした刑罰を除去しなければならない。それは単なる恩恵ではなく国家の当然の義務である。原告は、被告の右のような義務の不履行により被つた不利益と、さらに減軽による前記刑の執行終了の時期が早まることにより刑法第二八条、第五六条等の適用にともなう利益を享受するため、本件訴の利益を有するものである。なお、原告がいずれも詐欺罪により懲役二年六月および懲役一年六月の言渡を受け、被告主張の日に右刑が確定したことは認める。」と述べた。

被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、「(一)原告の本訴請求は、原被告間の法律関係の確認を求めるものでなく、単に原告の感情的満足を求めるものにしかすぎないし、前記減刑令第一条第一項本文の趣旨から考えると、すでに刑の執行の終了した者に対して減刑することは無意味である。すなわち、原告は、昭和二九年五月一一日に刑の執行を受け終つているのであるから、執行終了後である現在に至つて右減刑令の減刑該当者であることの確認を求めても、これによつて何らの法的利益を得るものでない。(二)刑法第三四条の二(刑の消滅)の規定の適用関係について考えても訴の利益を欠くというべきである。すなわち、仮りに、原告主張の刑が昭和二七年四月二八日政令第一一八号減刑令第四条第一項第二号、第三項の適用によつて減軽されるとしても、右減刑は原告主張のとおり、右同日政令第一一七号大赦令による刑の分離の裁判があつた後の刑について刑期の四分の一が減軽され、懲役一年四月一五日となり、未決勾留日数四〇日を算入すると右刑の終期は昭和二八年一一月二四日となる。従つて、その翌日から刑法第三四条の二に定める刑の消滅期間が進行をはじめるわけであるが、その後原告について、右刑の言渡しの効果の消滅に必要な期間である一〇年以内に、いずれも詐欺罪による懲役二年六月(昭和三七年三月二日確定)および懲役一年六月(昭和三七年六月一四日確定)の刑が確定しているから、これによつて当然前記刑の消滅期間は中断され、同条の利益を受けることはできない。したがつて、本件訴はその利益を欠く不適法のものとして却下を免れない。なお請求原因としての原告主張事実は、原告が昭和二七年政令第一一八号減刑令第一条但書にいわゆる遁刑者に該当しないとの点を除きすべて認める。」と述べた。

(証拠省略)

理由

本件訴は、原告が昭和二五年七月一三日大阪高等裁判所において、詐欺、横領、背任、物価統制令違反被告事件により懲役二年(未決勾留日数四〇日算入)の刑の言渡を受け、右裁判が昭和二六年三月一六日上告棄却により確定した(もつとも、右併合罪のうち物価統制令違反の罪につき昭和二七年四月二八日政令第一一七号大赦令による赦免があつたので、その他の併合罪につきいわゆる分離決定により右言渡刑が懲役一年一〇月と定められた。以下「本件宣告刑」という。)が、本件宣告刑については、さらに同日政令第一一八号減刑令の適用によりその刑期の四分の一を減軽すべきであつたにもかかわらず、被告機関が原告を右減刑令一条一項但書の「この政令の施行の際現に逃げ隠れている者」にあたるとして取り扱い、ついに原告が本件宣告刑どおりの刑の執行(始期昭和二七年八月二〇日、終期昭和二九年五月一一日)を受け終つたことにもとづいて、原告が右減刑令による減刑該当者であることの確認を求めるものであつて、このことは原告の主張自体によつて明らかである。

そこで、かりに、原告主張のとおり、原告が右減刑令による減刑該当者であるとしても、現在においてその確認を訴求することが許されるかどうかについて考えるに、およそ政令によるいわゆる一般減刑は、その政令の施行の際における減刑該当者について、当該宣告刑の減刑手続がとられたると否とを問わず、当然に所定の減刑率によつてその宣告刑が減軽されるのである。したがつて、減刑該当者であるにもかかわらずそのまま宣告刑の執行を受け終つた者について、その刑の執行終了時は、名目上ながら減刑による変更刑期によつてこれを定めるべきである。そして、名目上の減刑であつても、人の資格に関する刑法第三四条の二の規定の適用について実益がありうるから、右実益の存するかぎり、当該宣告刑の言渡の失効確認を求める趣旨で、名目上の減刑につきその減刑該当者であることの確認を訴求する利益はあるということができよう。しかし、原告は、さらに詐欺罪により懲役二年六月の刑の言渡を受け、右刑が昭和三七年三月二日確定した(このことは当事者間に争がない。)ことにより、本件宣告刑の減刑による変更刑の終期から一〇年を経ないで(本件政令による減刑計算上明白である。)懲役刑に処せられた者である以上、本件宣告刑につき人の資格の制限に変動を生ずる余地はさらにないから、刑法第三四条の二の規定の適用上本件訴の利益を肯定することはできない。なお、原告は同法第二八条及び第五六条の適用につき本件訴の利益がある旨を主張するけれども、すでに本件宣告刑の刑期を終了した原告について仮出獄の規定を適用する余地はもとよりないし、また再犯事由たる期間経過の有無については当該犯罪に係る審判においてしんしやくすれば足りる事項と解すべきであるから同法第二八条及び第五六条の規定の適用上本件訴の利益があるとはとうていいえない。

よつて、原告の本件訴は、不適法であるからこれを却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川幹郎 浜秀和 前川鉄郎)

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